第17回全国高等学校版画選手権大会

2017年


磯見 輝夫

 17年目となる「はんが甲子園」は佐渡が久々の晴天を迎えた晴れやかな日に幕をあけました。今年は北海道から九州まで広く代表が出場し、熱戦が期待されましたが、その期待通りレベルの高い力の拮抗した大会になりました。

 今年は予選から例年と少し様相の変わった印象を受けました。これまで木版の作品が主流で、他の版種はあっても少数であり作品の大きさも小さなものが多かったのですが、今年はドライポイント等木版以外の版種が多く、作品もこれまでより大きくなり、その存在感が増しました。そしてその作品の内容も、今高校生が直面する問題意識であろうと思われるものが多く見られました。そうした予選での作品を見て、今年のテーマは佐渡を中心に考えるのでは無く、高校生の意識を主体として考えようと思いました。高校生が今何を大切に考えているのかということを、佐渡という風土のなかに見つけるものから表現して欲しいと思い、「佐渡で感じた大切なもの」というテーマを設定しました。

 例年通り選手諸君は渾身の力を込めて制作に没頭してくれたというのが素直な印象です。出場校14校本当に拮抗した作品を制作してくれました。今年のテーマから最も多く選ばれた題材は「裂き織り」という古い布を裂いて、それを材料に織った佐渡独特の織物でした。そこには古いものを捨てて新しいものに変えるのではなく、古いものから新しいものを生み出す、再生と言うことに同感した高校生の気持ちが表れていました。

 版画としての完成度は一様に高いものでしたが、その中で一位に選ばれた佐賀県立神埼清明高等学校の「佐渡に育む真心・躍動」は全体のなかで異色の生彩を放っていました。五重塔を描きながらそれが単に美しいというより、題名にもある通り、躍動しているエネルギーを感じさせる作品でした。その制作の行程を見ていると、一見出来上がったかに見えた画面にさらにイメージを重ねてゆくという、その意欲がこの作品に力を与えていました。また二位になった京都精華学園高校の「目洗い地蔵」は地域で続いているお風呂を焚く情景を描いていますが、その火の灯りの表現が美しく見るものにその場の温かさを感じさせる作品です。それぞれ表現したいことに向かって一歩余計に前に踏み出したことが、新しい魅力を生み出しているのだと思います。

 先ほど少しふれましたが、個人賞の作品もそれぞれの主張を持った作品が目立ちました。広島市立沼田高校の橋本さん大野さんの作品に描くことへの意志としっかりとした表現力を見て感心しました。

 表現するということは大切なことです。版画の制作を通して自分の思いを表現し伝えようとすること。その大切な力を育ててゆくことが、この選手権の最も基本的な使命です。これからも多くの高校生の参加を期待しています。

以上