第18回全国高等学校版画選手権大会

2018年


 小林敬生

 18年目を迎えたこの大会、何よりの特色は3人1組で取材から制作完成までを僅か3日間で……というスケジュールにあります。
通常の美術コンクールは時間をかけて制作された応募作品を並べて優劣を競うというものですが…。この大会、出場校の選手たちには感性や技術力に止まらず精神力を含めた体力とチームワーク迄もが要求されます。
この苛酷ともいえる試練を14校の選手たちは1チームの落伍もなく乗り越えて見せました。彼らの姿を目の当たりにしてこの大会の意義を再認識した思いです。

甲子園出場によって大きく飛躍する球児の姿を目にする事は多多ですが、この大会に於いては出場選手全員が見違えるような成長を見せた、と断言します。完成した作品たちがその事を証明しているのですから…。同時に監督を務められた指導教員の方々の指導力と生徒たちへの愛情、何よりも版画に対する熱意に心からなる敬意を表するものです。

今回の課題は”佐渡からの便り”としました。若い感性が佐渡の文化、歴史或いは風土、景観を現地の人々との触れ合いを通してどのように受け止めたかを素直に表現してもらいたいと考えての事です。
完成したのは取材の中、地元の人々と触れ合う中でイメージした佐渡を素直に表現しょうとする姿が透けて見えるような作品たちでした。その意味で優劣は無いに等しいのですが大会である以上、賞を決めなくてはなりません。臼杵氏と2人、悩ましい時間をかけた挙句の決断でした。

文部科学大臣賞の「拝啓 3月17日の宿根木」は絵画的な意味での完成度に感嘆しました。油性インクの特徴である、色面の強さを存分に生かした色面処理と構成力が3月とはいえ春まだ遠い宿根木の風景を通してこの地に住まいする人々の生活にまでも思いを馳せさせる作品に昇華しています。
中小企業長官賞「舞い続ける」は木版画、水性多色摺りならではの作品です。佐渡の文化、歴史を素直に再構成した力量は見事です。
新潟県知事賞「そして世界へ」は佐渡の生活を裏で支え続ける人々に目を向けた作品です。地元の高校生だからこその視線でしょう。
佐渡市長賞「さどびより」はまさに佐渡、を表現した作品です。荒削りなノミの扱いだからこその力強さが画面にみなぎる作品です。
佐渡版画村賞「春待つ姫津より」はオーソドックスな多色摺り木版画に取り組む姿勢を評価しました。

今回の選手たち、今後いかなる進路を選ぼうともこの苛酷ともいえる試練をのり超えた経験は大きな自信としてそれぞれの身体のなかで生き続けると確信しています。

以上