第21回全国高等学校版画選手権大会

個人部門入賞作品 2021年

新潟日報社賞

―野良仕事―
静岡県立伊東高等学校城ケ崎分校
宮下 旦

かつてあった日常的な情景、題材としての目新しさはないが、それを問題にしない程の力強さとリアリティーに溢れた作品である。
「人は自然の懐に抱かれ額に汗して大地を耕しその恵みを受けて生き続けて来た」。社会全体が経済効率優先に狂奔する現代、あらためて“人間本来の営みとは何か”を考えさせられる作品である。

NHK新潟放送局賞

―工場の棚―
岐阜県立池田高等学校
大久保 聡一郎

ごくありふれた町工場の一隅、棚に吊るされて出番をまつ工具達が適度に省略されたフォルムで描かれている。無雑作とも見える大胆な彫り跡が画面に力を与えているが、工具達にさり気なく用いられたキラ摺りを見ると“単なる無雑作”ではないことがわかる。具象的な表現であるが抽象絵画としての魅力も備えている様に思う。

BSN新潟放送賞

―動物園―
広島市立沼田高等学校
小笹 真凜

動物たちを前にして無邪気にはしゃぐ少女、素直に描かれた少女の表情が楽しい。多色多版の木版による色面の版分けもオーソドックスで好感するが、それ以上に動物や鳥たち、特にゾウとキリンの描写が心憎い。
子どもたちの歓声が聞こえて来る様な作品である。

NST賞

―無題―
青森県立弘前実業高等学校
岩﨑 凜花

モノトーンの木版画。版木と和紙そして墨と水。日本の風土が生み出したこれらの素材を活かしてこその伝統的な水性木版画の世界がここにある。墨版とグレー版、そして要所要所に残された紙の色が実に効果的で、機関車の描写の中に見られる黒の中の階調、ボカシ摺りなどを駆使した“摺り”に対する意識の高さが相乗して生まれた作品と思う。

TeNYテレビ新潟賞

―沖縄の宝―
沖縄県立開邦高等学校
仲田 七星

沖縄の宝、守礼門を中心に据えた多色摺り木版画による作品である。色彩の組み合わせ、フォルム、もう一つの沖縄の宝「紅型」を思わせる表現は意図してのものか、或いは沖縄人の本能か・・・。守礼門、紅型、透明で豊かな海、広々とした青空、全てが沖縄の宝、沖縄に生きる人ならではの作品と思う。

UX新潟テレビ21賞

―横浜の思い出―
立花学園高等学校(神奈川県)
田島 千草

一見、黒の色面の上に色版を重ねただけの様に見えるが、詳細に見ると主版となる墨版が港の描写に重要な役割を果たしていることがわかる。ヨコハマの夜景を高所から俯瞰した構図と描写、参考となる資料があったとしても画面構成、色彩の扱いに感覚の良さと豊かな表現力を見る。

サドテレビ賞

―ワタシの住み家―
広島市立沼田高等学校
川口 春

ドライポイントによる描線の力強さがこの作品最大の魅力である。「ワタシの住み家」、大気汚染などで地球を追われた人類が宇宙空間につくりあげた人工都市?或いは地上を追われて海底に構築した建造物?いずれにしても人類の未来をイメージして描いたものであろう。思わずこの建造物の中に暮らすワタシたちの姿を想像してしまうのは私だけだろうか?

ベストライフ賞

―動物が集う―
福井県立足羽高等学校
吉川 珠里愛

ドライポイントには、版をニードルで引っ掻くように描画しなくてはならない不自由さがあるが、その事が逆に画面に力を与えてくれることもある。女生徒が奏でる音色に引き寄せられて集う動物たち、それぞれの表現が楽しげで微笑ましい。作者のイメージ世界と素直な描写に乾杯!である。

昭和ゴム機工賞

―猫と和解せよ―
千葉黎明高等学校
田口 楓

この作品からは筆の痕跡を版を使って摺り取る、モノタイプに使われる方法を活かそうとの意図がうかがえる。猫と人の顔を中心に平面的に構成した画面の中で、色面のマチエールとして機能しているという意味でその試みは成功している。既成概念に囚われず自由に版と向き合って良し!

双文社賞

―旅―
静岡県立伊東高等学校城ケ崎分校
石川 日美子

かつて、小野忠重は黒の色面を下地にして、色を重ね摺りする陰刻法を創案し、油絵のような重量感を画面に与える事に成功した。この作品もその系譜に属するものであるが、旅する少女の表情、帽子の扱い、背景の光の描写などで見事に季節感までもが表現されている。ごく普通のありふれた情景を。ここまで魅力的な作品に昇華させた力量に感嘆する。