第21回全国高等学校版画選手権大会

2021年

 審査員長(一社)日本版画協会理事・多摩美術大学名誉教授 小林敬生


今大会の課題は「佐渡遠望」としました。コロナ禍で直接佐渡に集い取材する事は叶わず、リモート取材方式を採用する事になったために、文字通り“遠望”しかないと考えたからでした。

従来は全チームが佐渡に会し、取材の上3人一組で作品を完成させる。制作期間は僅か3日、という過酷な試練とも言えるスケジュールが課せられることを最大の特徴とする大会ですが、今回は取材はリモートで制作はホームグランドで、期間は2月末から提出期限は3月22日、実に余裕のある大会となりました。

審査は、一度佐渡に提出された作品を東京に送って頂き佐渡の版画村理事長の中川氏とリモートでやり取りしながらのものとなりました。
提出された各チームの作品は日常制作している環境下での制作という事もあってでしょう、技法もイメージも多岐に渡っており密度、完成度共に充実したものでした。リモートゆえの不便さは多少ありましたが、中川理事長と2人、実に悩ましくも楽しい審査であったことを報告します。


―  短 評  ―


文部科学大臣賞  大阪府立港南造形高等学校  「トキ渡り」
佐渡への思いと手技(・・)に拘る自分達の版画に対する想いを「江戸時代の彫り師の姿に自分達の姿を重ね合わせて表現した」作品です。
オーソドックスな主版法による多色摺り作品、主版のトキの扱いをはじめとする構成、色版のボカシを始めとする摺り、隅々まで神経の行き届いた全てに於いて完成度の高い作品と思います。
審査後に知ったのですが3年間同じメンバーで挑戦し続けたとのこと、流石(さすが)のチームワーク!と感じ入りました。


中小企業庁長官賞  広島市立沼田高等学校  「春の訪れ」
主版に頼らず版分けした色版を摺り重ねての文字通り多色摺り作品です。「コロナウイルスの恐怖から佐渡の町、そして日本を守ってくれるように」との願いを込めたという(佐渡の有形文化財)木造仁王像を中心に据えた画面構成が力強く、作品に魅力と力を与えています。
通常は失敗することが多い、絵の具を厚めに載(の)せた“摺り”がこの作品の場合は成功しているといえましょう。


新潟県知事賞  静岡県立伊東高等学校城ケ崎分校  「幻 影」
「佐渡の金山を中心に実際の形状や色に拘わらず私達の(イメージ上の)佐渡を描いた」という意図通り高度なイメージ世界を描出しえているように思います。陰刻によるノミの彫線を生かした表現は主版法では得る事のできない世界です。多色作品ですが一版多色に近い技法でしょう。


佐渡市長賞  埼玉県立熊谷西高等学校  「トキマワリ」
佐渡の歴史、風景、伝統文化、様々を画面上に取り入れながら何の違和感もなくごく普通の風景画の如くさりげなく表現しているところに感嘆します。特に棚田から海へとつながる描写が見事でオーソドックスな主版法による多色摺りと相まってレベルの高い作品になっています。
文部科学大臣賞の「トキ渡り」に匹敵する作品だと思います。


佐渡版画村賞  新潟県立佐渡高等学校  「佐渡からの贈り物」
「私たちの“遠望”とは、日常では身近な風景や物事を少し離れた視点からもう一度見直す事であった」、地元のチームならではの言葉です。
コブダイを中心にした画面構成もさる事ながら色面の鮮やかさに目を奪われます。木版画ならではのフラットな色面の美しさが描かれた様々なフォルムの未熟さを問題にさせないほど力強く支えています。


以上が上位の受賞作品の短評ですが、今回は同じ木版画でありながら表現方法は多岐にわたっており見応えのある作品が揃っていました。奇しくも上位三賞の技法は、主版法による多色摺り、分解法による多版多色、そして陰刻法が主体の多色摺り、とそれぞれ異なる技法によるものでしたがこの事が今大会の大きな特徴であると言えましょう。
さらに言えばこれらの作品以外にも取り上げたい作品が数多く揃っていた事も又、特徴です。

以上