第6回全国高等学校版画選手権大会

本戦結果 2006年

審査総評

実質三日間という短い時間に、それも三人によるチーム作業でここまでの完成度をもった、しかもいづれも佐渡の地の特質を捉えた作品が出来たということにまず驚かされ、感心した。いづれも若々しくすばらしい出来栄えであった。
そしてこれらの成果は、版画という日本人の体質、感覚によくあった表現方法なのだと、改めて思い至った次第である。

新潟県知事賞

「風彩」(かぜいろ)
静岡県立伊東城ヶ崎高等学校
06-01s
【審査員評】
まず目を引くのは画面全体がかもし出す斬新さである。会場から眺めた佐渡金山の割戸を描いているが、「風彩」と題されている通り作品は単なる風景にとどまらない。
空、山、裾野、海といわば佐渡の地を大きな視点からつかまえ、そこに吹き渡る風に豊穣な色彩を与えたという若々しい作品である。黒色の主版を単なるものの輪郭を作るということから開放し、ここでは色面と質を同じにして、悠々とまた生々と画面に躍動感を与えていることに、またそれだからこそ色彩がちょうどステンドグラスのように輝きをもって輝いてくる、そうした技術的なところにも注目したい。

佐渡市長賞

「春咲く心優しき佐渡の朝市」
青森県立弘前中央高等学校
06-02s
【審査員評】
取材の日の朝に出会った相川の朝市がテーマだが、明るく健康そうなおばあさんの顏が印象的である。二人の顔を遠近法を逆にしたように描く表現が効を奏している。
墨線がものの形を決めるという従来のやり方をとっているが、二人の女性の表情を大まかに明暗二色に整えた表現が全体の雰囲気を決めている。
色彩も豊かで朝市の活気が伝わってくるようである。朱鷺も嬉しそうに飛んでいる

佐渡版画村賞

「いたずらとんちぼ」
神奈川県立弥栄東高等学校
06-03s
【審査員評】
まず作品のダイナミズムを評価したい。赤い鳥居を斜め下から仰ぎ見る構図で、しかも一番手前の鳥居は左上を断ち切っている。若者らしい構成の躍動感がすばらしい。
陽刻した黒の線と左の笹やぶが陰刻した白線との対比も冒険だがなかなかうまく収まって画面に変化を与えている
「おけさ心の佐渡の月」
大阪信愛女学院高等学校
06-04s
【審査員評】
全体に明るく華やかな色彩があふれて、踊りのもつ動きとともに、生き生きとした作品になっている。前を向く踊り手と後ろ向きの踊り手を向き合わせた構成が、ともすると単調になりやすい情景に緊張感を与えていることも見逃せない。ここにも朱鷺が舞っている。
「時空を超えて~世界遺産への始動~」
島根県立安来高等学校
06-05s
【審査員評】
はばたく朱鷺が中央に描かれているが、この作品のテーマはこの朱鷺だけではない。よく見ると下方に割戸があり海があり、左上には金山の廃屋に花が咲いている。ときは時空(とき)に通じて巡る時間に生成と消滅が描かれ、世界遺産申請への夢が明るく表現されている。

審査員奨励賞

「春の響きが聴こえてくるよ」
北海道札幌平岸高等学校
06-06s
【審査員評】
老舗の造り酒屋と桜の古木に鬼太鼓を絡ませた構図は、いまも脈々と息づく歴史と伝統の重みを感じさせます。また、その老舗を支える女将さんが、春の訪れとともにやってきた作者たちを歓待してくれた様子がほのぼのとユーモラスに表現されており、見る側にも暖かな感動を呼び起こします。
「朱鷺旋風(ときかぜ)〜佐渡憧憬〜」
青森県立弘前高等学校
06-07s
【審査員評】
佐渡の春風に乗って舞い飛ぶ朱鷺を、墨の線の動きを生かして力強く表現しています。バックに配した椿の花と春らしい暖かい色彩が生命の息吹を感じさせ、新たな季節への期待に満ちた躍動感溢れる作品に仕上がっています。
「’06佐渡の愛」
青森県立弘前工業高等学校
06-08s
【審査員評】
時間の流れとともに風化した道祖神にみずみずしい青竹という、対照的な質感のモチーフが大変印象的な作品です。静かにときを重ねた道祖神と、若々しい青竹とがよく調和し、透明感のある画面に仕上がっており、生命への深い愛情が感じ取れます。
「記念切手 廃墟で降る光を見た」
新潟県立新潟南高等学校
06-09s
【審査員評】
佐渡の廃墟を記念切手風にアレンジし、画面上にも佐渡の金山を思い起こさせる金箔を振るなどさまざまな工夫を施して、ノスタルジックな中にも新鮮な感動を呼び起こす作品に仕上がっています。この作品は、佐渡の風土と歴史に触れた思い出の「記念切手」として、心に深く刻まれることと思います。
「佐渡金山の詩」
新潟県立佐渡総合高等学校
06-10s
【審査員評】
かつての金山での過酷な労働を、ひとびとの生き生きとした動きや表情で多彩かつ細やかに捉えることで、当時の活気がじかに伝わってくるような生命力溢れる画面構成になっています。力強い画面を通して、豊かな自然に育まれた作者たちの、郷土への限りない感謝と愛情が伝わってきます。
「梨の木地蔵~感謝のこころいつまでも~」
静岡県立浜松江之島高等学校
06-11s
【審査員評】
さまざまな角度からとらえた地蔵を効果的に配し、ダイナミックな構図と赤を効かせた配色でリズミカルに表現されています。ひとつひとつ丁寧に彫られた地蔵の穏やかな表情が、佐渡の自然と生命への深い感謝の気持ちをよく表しています。
「佐渡の美しい水と酒と心」
兵庫香寺高等学校
06-12s
【審査員評】
歴史を重ねた造り酒屋とその伝統を守る杜氏、佐渡が誇る美しい水と美味しい米が互いに響き合って、ひとつの画面に大胆に生き生きと構成されています。光をうまく捉えた色面と力強い墨の線からは、佐渡の心意気が伝わってくるようです。
「うけつがれていく時間」
島根県立大田高等学校
06-13s
【審査員評】
佐渡の伝統的な家屋を眺める椿の木と二羽の鳥。その静かなたたずまいのなかに、豊かで奥深い時間の流れを感じさせます。地元の歴史的建造物との違いに感銘を受け、このモチーフを選んだのでしょう。その新鮮な感動と敬意が感じられ、大変好感の持てる作品です。
「弥生 三月 相川の春」
高知県立学芸高等学校
06-14s
【審査員評】
佐渡の穏やかな春の海を、落ち着いた色面構成で捉えています。冬の荒れた海が、春の訪れとともに穏やかに凪いでいる様子がよく捉えられており、控え目な色調の中にも、これから迎える新しい季節への希望や生命の誕生を待ちわびる気持ちが伝わってきます。