第7回全国高等学校版画選手権大会

本戦結果  2007年

審査総評

はんが甲子園も7回を迎えて、いよいよこの催しが地に着いてきた感が強い。粒ぞろいの優れた作品群がそれを雄弁に語っているといえよう。
しかしその陰で、慣れというか概念的な作品も垣間見られたのは、長い歴史を持つはんが甲子園の当然のゆるみとも受け取れた。
この催しのまったく他に例を見ない特徴は、佐渡の地に身を置いて触れる風物・芸能・民話に触発された若い感性を、版を通して、しかも時間の制約の中で協力し合って一つの造形に結実させるところにある。つまり初めて接したものに反応したみずみずしい感動が制作の羅針盤にならなければならないのに、慣れや情報過多の中で形骸化、類型化してしまうのは残念なことである。
とはいえ実質三日間の共同制作は、生徒達や先生にまたとない体験をさせたことでしょう。この体験こそ参加者全ての中に輝く宝物になるに違いない。
入賞した作品は、いづれも佐渡の風物・芸能・民話を巧みに造形の言葉に置き換え、それぞれに版画ならではの詩に結実させ得たものであった。

文部科学大臣賞

「いま、史を渡る」
島根県立安来高等学校
07-01s
【審査員評】
一目で誠実な作品とわかる。ていねいな彫りと水性顔料、和紙刷りのしっとりとした発色が美しい。木版画の良さを十分に納得させる作品である。
かつて盛んに鉱石を運んだであろうトロッコは錆びついて、廃屋も昔の栄華を語るばかり、よく見るとその廃屋に重なって植物の根が縦横に張ってきて、過ぎ去った時の流れを感じさせている。
湾曲した海岸と道遊の割戸、トロッコの線路は天にのびて、いまは静かになった歴史に感動を添えていて、この作品をまだ終わらない現代の物語に仕立て上げている。秀逸な作品である。

新潟県知事賞

「海の幸せ」
新潟県立佐渡総合高等学校
07-02s
【審査員評】
どこか大らかで骨太の構成が素晴らしい。
佐渡の日常に見られる海の幸の風物がテーマだが、黄・紅・青の三原色と和紙の生地を生かした色彩の配分が功を奏している。
単純にして力強い、ストレートな唱い上げ方が心地よいのである。カニの周囲に散在させた紅の彫り残しも雰囲気を掻き立てるのに役立っている。賑わいのある海の幸せの一点である。

佐渡市長賞

「佐渡鶴女房 夕鶴」
大阪信愛女学院高等学校
07-03s
【審査員評】
まず織機を正面からとらえ、そこに体をよじった主題の鶴を大きく組み合わせ、図面にダイナミズムを生み出させた力量に拍手を送りたい。
よく見ると、織機の鶴と重なる部分の色が変えられていたり、織られた布が輝くように刷られていたり、羽根に細かな細工が見られたりと、随所に繊細で丁寧な彫り・刷りと工夫が見られて、佐渡の民話がすばらしい作品になった。

佐渡版画村賞

「佐渡の春駒」
北海道札幌平岸高等学校
07-04s
【審査員評】
佐渡の民俗芸能・春駒に取材した作品。
春駒にまたがる顔のゆがんだ主役のシテを画面いっぱいに、お囃子のワキは右下にやや小さめに描く。そうしたデザイン性の勝った構成は、しかし嫌味がなく主題を浮かび上がらせて良い作品になった。
惜しむらくは、背景の屋根にこの地方に見られる釉薬のかかった黒い瓦を描き入れて欲しかった。観察はもう少し丁寧であって欲しい。
「古木の哀歌」
広島県立福山葦陽高等学校
07-05s
【審査員評】
椿の古木と石地蔵を描いていて暗鬱なこの地方の浅い春の情景と雰囲気を良く伝えている。
決して上手とはいえない未熟な技量と構成ではあるが、若者のまっすぐな造形への意識と感動が伝わってくる好作品である。
取材の当日の小雨の中の寒い一日の様子が正直に絵に現われていて、気持が伝わってきてほほえましい。古木の幹にも夜空の星にも工夫が見られる。

審査員奨励賞

「ときのきせき」
青森県立青森戸山高等学校
07-06s
「佐渡金山 夢のあと」
青森県立弘前高等学校
07-07s
「佐渡、春乱舞」
青森県立弘前中央高等学校
07-08s
「翔(かける)」
静岡県立伊東高等学校 城ヶ崎分校
07-09s
「洗濯日和」
兵庫県立香寺高等学校
07-10s
「今こそ 翔ばたくトキ」
島根県立大田高等学校
07-11s
「朱鷺が舞うトキ」
山口県立防府商業高等学校
07-12s
「千石船情話」
佐賀県立鳥栖商業高等学校
07-13s
「セイナゴ釣り」
沖縄県立那覇高等学校
07-14s

まず織機を正面からとらえ、そこに体をよじった主題の鶴を大きく組み合わせ、図面にダイナミズムを生み出させた力量に拍手を送りたい。

よく見ると、織機の鶴と重なる部分の色が変えられていたり、織られた布が輝くように刷られていたり、羽根に細かな細工が見られたりと、随所に繊細で丁寧な彫り・刷りと工夫が見られて、佐渡の民話がすばらしい作品になった。